
投資用不動産を売却したとき、購入した価格よりも高く売れると、収益に対して譲渡所得税がかかってきます。しかし、10年以上所有していた投資用不動産を売却した場合は、「不動産買い換え特例」で節税できるかもしれません。
「不動産買い換え特例」とはどんな制度なのか、詳しくご説明します。
不動産買い換え特例は、譲渡所得税の一部について納付を先送りする制度

不動産買い換え特例は、正式には「事業用の資産を買い換えたときの特例」といいます。一定の条件を満たすことで、譲渡所得にかかる税額の70~80%について、納付時期を先送りにできる制度です。
譲渡所得とは、売却価格から購入した際の価格や売却にかかる諸経費を差し引いた金額をいいます。譲渡所得税の税率は不動産の所有年数によって異なり、長く所有していた不動産を売却した時の方が、より税率が低くなっています。
ただ、売却した不動産の所有期間が5年を超える「長期譲渡所得」でも、税率は所得税15.315%、住民税5%の合計20.315%と非常に高額です。これを圧縮できるのなら、ぜひとも利用したいところでしょう。
不動産買い換え特例は、事業に使っていた物件を売却して、新たに事業用の物件を購入する場合にのみ利用できます。基本的には企業や事務所の移転などの場合に利用される制度ですが、投資用物件の買い換えでも適用が受けられます。
ただし細かい条件があって、売却する物件については売却の前年末までに所有期間が10年を超えていなければなりません。ほかにも以下のような条件があります。
・売却の前年から翌年の間に、新たな事業用物件を購入すること。
・新たに購入した物件は、購入から1年以内に事業に使用すること。
・事業用資産が土地の場合は、購入した土地の広さが売却した土地の5倍以内であること。
不動産買い換え特例の適用を受けるには、所得税の確定申告が必要です。確定申告時に買い換えで購入する物件が決まっていない場合は、見積もり額で特例を適用して、後日に申告の校正や修正を行います。
不動産買い換え特例を利用して譲渡所得税の納付を延期できれば、繰り延べた税額分を新たな不動産の購入資金に回いこともできます。購入資金が潤沢になれば、物件の選択肢も広がることでしょう。
購入資金に回さず、手元に資金を残しておくのもいいでしょう。手元資金が多ければ、修繕やリフォームも視野に入れられますし、不測の事態にも備えられます。
不動産買い換え特例が利用できるのは、現在のところ2026年3月31日までの譲渡分となっています。ただ、これまでにも期限の延長があったため、2026年以降も継続される可能性もあります。
不動産買い換え特例は本当お得なのか?

不動産買い換え特例を利用するに当たって、いくつか気をつけておきたい点があります。まず不動産の買い換え特例は、譲渡所得税の一部の納入期限を先延ばしに世できる制度であって、非課税になるわけではないということです。
不動産買い換え特例で先延ばしにした譲渡所得税は、買い換えで購入した不動産を売却するときに、合わせて支払わなければいけません。その時点で、多額の税金が発生することを覚悟して、納税資金を準備しておく必要があります。
またこの特例では、東京23区や首都圏・近畿圏・名古屋市の一部が特定の区域に指定されています。地域外での買い換えなら譲渡所得税の80%が繰り延べできますが、地域外の不動産を東京23区内の不動産に買い換えた場合は70%、東京23区以外の指定地域への買い換えなら75%しか繰り延べできません。
さらに譲渡所得税の納付を先延ばしにしたことで、帳簿上は手持ち資金に余裕が出ることでしょう。その結果、事業所得税などほかの税額が増えてしまうケースがあります。
不動産買い換え特例は、「優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」や「減価償却資産の特別償却」といったほかの特例との併用はできません。
不動産買い換え特例を利用したほうがいいのか、やめておいたほうがいいのか、あるいはほかの特例が利用できるのかはケースバイケースです。検討するには、税制についての詳しい知識や煩雑な計算が必要になります。
「自分の所有している不動産に適用できるのか知りたい」「適用を受けた場合と受けなかった場合のシミュレーションをしたい」と考えるなら、ぜひ不動産会社や税理士に相談してサポートを受けることをおすすめします。